人気ブログランキング | 話題のタグを見る

僕はピカチュウの 



「3570円です~」
「あ、プレゼント箱に包んで下さい」
 大学生ぐらいの男の子が僕を買ってくれた。
 彼女さんに僕をプレゼントするのかなぁ。どきどき。
 工場で生まれて間もない僕だけど、そういうのってニヤニヤが止まらないよね。
 ああ美しき青春の……
 なんだろう? てへ。

 ちょっとかっこいいお兄さんでございましたし、彼女くらいいるよね。
 箱に詰められて揺られてる間も、僕の行先そっちのけでずっと妄想してました。
 動けないからそれしかすることがないんだけどね。

「ただいま」

 あ、家に帰ったみたい。
 プレゼント箱は開けられた。

――って、あれ?


 ベッドの上。
 どうみても女の子の部屋じゃない。すごい質素。
 そう言えば、プレゼントするそぶりもなかったし……

 さっきの男の子が僕を取り上げて、ベッドの枕元に置いた。
 まさか、自分用?
 彼はベッドに寝っ転がると、頬杖をついて僕を見ている。
「ピカチュウちゃん、今日から宜しくねぇ」
 にやってしてる! こいつ、にやってしたよ今!
 プレゼント用に僕を買ったんじゃなかったのか!
 期待してたのに……。と、そこで、高望みはやっぱりいけないな、と思い直しました。
 頭を撫でて、彼は出ていく。ぬいぐるみ人生は大体平穏だって噂は聞くけど、僕の場合は一体どうなんだろう。不安だ……


「おや、新入りかい」

 あれ、誰だ? 辺りを見回して、その声の主を探す。

「ここだよ、ここ」

 壁掛け用の木彫りのキツネが、どうやら僕に話しかけているらしい。位置としては、ベッドの脚側のすぐ上の壁。

「キミも大変だな。彼、……そう言うのが趣味だからさ」

 小声で言わないでくださいキツネさん。どう言う趣味ですか。

「まぁ、頑張れよ。気楽にやりな」
「は、はぁ」

 キツネさん……あなたは彼の何を知っているんでしょうか。それに、気を引き締めるのかリラックスするのかどっちなんでしょうか。
 それ以上のコンタクトが無いから、僕は聞くに聞けなかった。

 彼が部屋に入って来た。明かりを消して、ベッドの中に潜り込む。
 そして、彼は僕をベッドの中に引っ張り込んで、両の腕で僕を抱きしめたのだ。
 もうどうにでもしてください……と、キツネさんの選択肢のうち、泣く泣く後者を選ぶことにした。

「あったかいなぁ……」

 嬉しそうに言わないでくださいお兄さん。繊細なマズルが潰れる!
 そう思った矢先、彼の呼吸がだんだん深くなってきて、腕の力も緩んでくる。
 少し解放されたおかげで、心安らかに毛布の熱を味わうことができるようになる。確かにあったかい。
 これくらいなら、まぁ一緒に過ごしててもまぁ大丈夫かな。
……と心を少しでも許した僕は、ばかだったんだ。たぶん。





あとがき。
某所でバレンタイン企画用に書いたものです。
途中から仮面舞踏会になってきたので、まなみ名義で投稿してきました。
by junjun-no2 | 2009-02-14 20:14 | 小説
<< ンジャメナ。ンゴロンゴロ。二つ... 中学時代のハンドブックだって役... >>