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明日

就職活動。
ES。

書かねばならぬ。でもどうやって?

読んでも読んでもわからない。

とりあえず書いてみるべ。
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by junjun-no2 | 2011-02-27 01:32

人の下痢路を邪魔する奴は、


 思春期というもの、ルールなんてくだらない、破ってみたい、と一度は思うことがあるだろう。
 例えば、学校の制服とか、スーツとか。何でこんな30度を超す暑い日にわざわざ汗をかくような服を着なきゃいけないのだ。世の中の社会人たちもそう思っているに違いない。私服で来れたら幾分か楽なのに。そう何度思ったか分からない。
 うだるような暑さの中で、午前中の授業をしのぎ切る。斜め前に座っているヤツの貧乏ゆすりが激し過ぎて、集中なんて出来そうにない。だめだ、精神の限界。顔を伏せ、訳の分からない先生の授業からドロップアウトする。
 制服のワイシャツのボタンはほぼすべて外され、赤いシャツがモロ出しになっている。

「だがしかし」
 思わず顔がにやける。昼休み、いつもの穴場、音楽室で友人数名と飯を食った後のことだ。この時のために、おれはある仕込みをしていた。
「ツザッキー、独り言気持ち悪い」
「お前たちもちょっとつっつけばいいじゃん?」
 俺は水筒を取り出して、友人に見せる。
「さっきお茶を俺くれって言ったくせに、水筒持ってんじゃねぇか」
 貰ったのは事実である。
 もちろん、この中身はお茶ではない。かと言って、炭酸水でもない。
「水筒だからと言って、お茶とは限らないだろ」
「じゃああれだろ? 熱湯だろ」
「いや違うよ」
「ツザッキーまじヒヤッキーだわ」
「……!?」
 ポケモンの第五作が出てから髪型が似ているというだけで何故かそんなことを言われるようになってしまった。一年前はギャル男と呼ばれていたのに、何の因果だろうか。ギャル男もヒヤッキーも否定はできない。
「何? 熱湯かけて欲しいの?」
 満面の笑顔で言うと、
「ヒヤ顔やめて怖い」
 と返された。
 勿体ぶってみたくて、友人の質問には答えない。その代わり、かばんの中からビニールに入った紙コップを取り出す。友人たちはこっちの様子を少し気にしながら、会話をつづけている。そして、俺は水筒のふたを開け、コップにその中身を注ぐ。
 ででーん。
 勘違いしないで頂きたい。誰かのケツがしばかれる訳ではない。
 水筒から、シャリシャリとした音がこぼれてくる。
 そう。中身はかき氷だ。
「……」
 思ったより仲間うちの反応が薄い。ドヤ顔したかったのに、予想外で少し凹む。
「……食う? シロップもあるけど」
 そして、かばんの中から、赤のボトル、黄色のボトル、青のボトル、紫のボトル、緑のボトル、選べる五種類の味を取り出す。
「お前ガチかよ」
 ここで、ようやくみんなの笑いを一つ取ることに成功した。お前何やってんだよ、と笑われることで、自分のプライドを満たすというのは常套手段。無意味なことは、ふとした弾みでしてみたくなる。 無論、自分で食べたかったのもあるが。
「じゃあヒヤ君レモン貰っていいっすか」
「150円になりまーす」
 手を出そうとした瞬間、頂きまーすと言って高速で食われてしまった。
「で、何で持ってきたの」
「食べたいからに決まってるじゃんか」
 超がつくほど真顔で言ったら、どんだけ食べたいんだよ、というツッコミが入る。内心ガッツポーズだ。食べたいからと言うのは、半分本当だ。理由の一つでしかない。もう一つの理由が何かと言われたら、笑いを取りに行くためだ。お前芸人になれよ、と言われる時もあるが、それもなんだか違う気がする。
 思った通り、水筒で入れたらなかなかとけないものだ。底に少しだけ溶けた水がたまる程度で済んだ。他の友人たちは食べないようなので、後は自分一人で食べる。
「うん、うまい」
 その後、友人の提案で全部の味のシロップをごちゃまぜにされて一気飲みさせられたりもした。味は濃かったが、暑さは多少吹き飛んだ。甘い。

 五時間目は体育のバスケだ。水泳という選択肢もあったが、友人達はみなバスケ派だったので、流されてバスケを選択した。
 楽しいのはいいが、6限の授業で水泳帰りのクラスメイトの涼しそうな顔をみると、若干の後悔が残る。先公は何故ロッカーにあるシャワーを使わせてくれないのか。一度も使われているところを見たことがない。
 シューズをキュッキュキュッキュ鳴らしながら、ボールを追いかけ、自分のポジションを考える。自分にボールが回ってきて、ここぞとばかりに一気に相手のゴールへと駆け抜ける。ゴールの下でレイアップ。
 ゴールのカベに当たって、すっと網をくぐり落ちる。ピー! とホイッスルが鳴り響く。周りから軽い拍手が湧きあがる。そしてまたコートに戻ろうと、振り返る。

 その時だった。

 何だろうか、この違和感は。
 身体がどことなく落ち着かない感じ。こんなに暑いのに、冷や汗が出てくる。
 試合はもう少しで終わる。走っているうちに違和感は消えるだろう。顔に出さないまま、コートに戻って試合を続けた。
 自分のチームは何とか勝利を収め、違和感もなくなっていた。と言うより、勝負に盛り上がっているうちに、忘れてしまっていたのだ。

「ありがとうございました」
 授業が終わって、礼をして着替える。うちの高校は、体育館から教室まで、やたらと遠い。普通は隣接してたりするようなものなのだが、全速力で走っても教室まで1分はかかる、そんなレベルの距離がある。
 みんなで話しながら着替えたりなんかしていたら、あっという間に次の授業まで残り1分、なんてことも少ない。仲間うちの連中は全く学習せず、チャイムが鳴るというのに小走りで移動する。あぁ、教室に入ったらまた怒られるんだろうか。先公は軽く注意するだけだから、それほどダメージは無く、別に構わないのだが。足取りは少し重たくなる。
「お前ら遅いぞ。次からは気をつけろ」
 とぶっきらぼうな先公の言葉。今から数Ⅱの授業を始めます。起立、礼。
 体育の後に授業を入れるというのはどうなんだろうか。両手両足に乳酸が溜まって、頭もぼうっとしてくる。軽めの運動は脳にいいと言うが、体育の運動は「軽め」とは言い難い。
 学校の授業なんて無駄だらけだ。もっと色々やりようがあるのではないだろうか。それがどんなやりようかって? そりゃあ……
「……じゃあ宿題だったはずの問3の1~3を黒板に写してもらおうか。今日は……滝沢、田中、それから……津崎ー」
 急に名前を呼ばれて目が覚める。と言うより、俺はどうやら眠りかけていたらしい。
 手に汗がにじむ。宿題なんてやった覚えがない。しかも基本から大分飛んだ応用問題で、今アドリブで解けと言われても難しいものがある。何となく意味は分かるが、何となくにしか分からない。
(あ!)
 奇跡が起きた。
 ノートを見たら、問題の答えが書いてある。そうだ、思い出した。俺にしては珍しくやる気を出したあの時だ。一通りちゃんと解き切ったのだ。すっかり忘れていた。
 よかった。ほっと胸をなで下ろした。
 しかし、状況は一変した。
 気を緩めた瞬間、腹に冷凍ビームが直撃したような衝撃が走った。
 しまった、と思った。体育の授業の時に感じた違和感。体調不良。まさか、こんなところで腹を壊すなんて。
 何とか我慢して、この場をやり過ごさねば。チョークを持つ手が震えている。きれいに書くなんてことは考えず、とにかく自分にとって無理な動きにならないように字を書く。
 やたらと他のクラスメイトの記入音が鮮明に聞こえる。チョークで書いた際に落ちるほんの少しの粉にまで、意識がいく。
 どうする? 書き終わってから、先公にトイレに行きたいと素直に伝えるべきか?
 俺は心の中で首を振った。
 クラスメイトの仲間うちは、俺をヒヤッキー呼ばわりしたりすることから分かるように、俺をやたらイジってくる。今行けば後で何を言われるか分からない。
 奴らに気付かれないように、授業が終わってからこっそり行くことにしよう。
 何とか文字を書き終わって、席につく。
「はい、それでは答え合わせでーす」
 マズい。先公が何を言っているかが聞きとれなくなってきた。
 精神は一瞬の油断も出来なかった。頭の中で思考を続ける。授業が終わったら、どのトイレに突入するか。最短ルートはどれか。まず、教室を出て、左に行く。走ってはさすがにメンツってものがある。
 二つ分の教室を抜けた先のトイレのドアを開ける。入り口は取っ手が無いから、それを掴んで強引に曲がることは出来ない。自力で足にブレーキをかけ、押す。
 ドアを必要以上に開いて、壁にぶつけたとしても、仕方がない。そこまで来たら、なりふり構っている場合ではない。
 細かいタイルを抜けて、洋式の方のドアを開ける。扉は全部で確か3つ。
 一つは洋式。一つは和式。一つは用具入れ。洋式はどれだったか……そうだ、手前の方だ。
 頭の中で思考錯誤するなかで、一つだけ間違いを犯していると言う事に、俺はこの時気付かなかった。

 時間よ早く過ぎてくれ。そう願って、壁にかかっている時計を見る。
(あれから全然経ってない……!)
 俺は茫然とした。口は半開きになって、傍から見ればきっと情けない顔だっただろう(その時はそんなことを考えている余裕は無かったが)。
 時間が過ぎて欲しいと言うときに限って、全く進んでくれない。人生生きていればそういうこともある。例えば、小学校の時に出場した市のドッジボール大会。待ち時間が退屈で退屈で仕方が無かった覚えがある。
 うっ、と、また便意の波が来る。これは冷凍ビームどころではない。ふぶきか。あるいはぜったいれいどか。
 何とか耐えしのいでくれ、俺の腹。
 机に突っ伏して、そのまま時間が過ぎて行くのを待った。

 チャイム。
「キリもいいし、今日の授業はここまでにします。終わります」
「きりーつ」
 委員長の声。立つということ自体がすでに刺激である。
「礼っ」
 ありがとうございました。
 元々みんなだらけた礼をするから、別段おかしく思われたりするようなことはないだろう。
 ウチの学校はHRを昼休み後に行うので、6限の授業が終わればもう帰ってもよいことになっている。せめてもの救いだ。
 焦るな、あまり教室内で走ってはいけない。今はみんな下校用の鞄を持って立ちあがっている。
 こんな時の為に、教科書の類は授業中すでにカバンの中にこっそり詰めていた。みんなが話をして教室に留まっているうちに、先に抜ければいいのだ。
 さあ、出る。出しに行く。授業中何度もシミュレートした通り、カバンを担いで教室を出て、左へ曲がる。押して開ける扉を押して、お手洗いへ直行する。

(何だよ……そんなのアリかよ)
 俺は絶望した。
 トイレのドアが、全て閉まっていた。先客。畜生、やられた!
 力が抜けそうになるところを、カバンを持つ手を握り締めて何とか我慢をキープする。
 何故この状況を想定しなかった、と自分に喝を入れる。
 しかし、腹を下している人間にとって、立った状態でじっと待つことは何よりの苦痛だ。どうする、等とは最早考えない。
 歯を食いしばって、トイレを出る。
「おーい、ヒヤくーん」
 後ろから友人の声。津崎からツザッキーに、ツザッキーからヒヤッキーに、そしてヒヤくんと呼ばれる俺は一体何なんだろうか。とてつもなく固い苦笑いを、友人に向ける。
「何か今日急いでるな。腹でも冷えたんじゃねーの?」
「……まぁ、そんなところだ」
「ヒヤくんマジヒヤッキーだな」
 と言ってドヤ顔をしてくる。どういう意味だかさっぱりわからない。いや、そんなことより俺はトイレに行きたいんだよ。
「それじゃ、またな」
 何とか声を振り絞り、手を振って友人と別れる。
 どうする……!? 正門に向かいながら、俺は必死にシミュレートを繰り返す。
 ここから確実にトイレにありつけるのは、残すところ職員トイレのみ。しかし、入って先生方に見つかってしまった時の気まずい雰囲気を味わうのは、恥ずかし過ぎる。
 俺が教師の事を先生方なんていうなんて、相当精神が参っているな。
 家までの距離はおよそ300m。これくらいなら、走っていけば何とかなるかもしれない。俺は覚悟を決め、走って我が家を目指した。

 俺は走った。ひたすら、アスファルトの道を走った。
 公園を抜け、見慣れた家の横を一軒、また一軒と過ぎて行く。オレンジ色の夕日が、妙に冷たく感じられる。
 下校する生徒が何人もいたが、そんな奴らは追い抜かす。呑気にペチャクチャ喋りながら帰ればいい。俺はトイレに行きたいんだよ。邪魔さえしなけりゃ。
 あとこの大きな道路を渡れば、我が家のあるマンションだ。本来はもう少し右にある信号を渡らなければいけないのだが、まっすぐ行くのが最短ルートなのだ。しかし。
「おいおい」
 いつになく、多くの車がスピードを出して抜けて行く。こんな時に限って。小さく足踏みをしながら、車の流れが途切れるのを待つ。
 7台、8台、9台……いくらなんでも多すぎる!
 本当に限界が近い。10台目の車には、申し訳ないが手を上げて渡らせてもらった。赤い車は急ブレーキして、クラクションを鳴らした。構っている暇はないので、俺は振り返らずに走り続ける。

「ハァ、ハァ」
 やっと着いた。我が家のあるマンション。エレベーターの上ボタンを押し、降りてくるのを待つ。ボタンの上の回数表示を見ると、今上の階へ上昇中だった。
(早く、早く降りて来い)
 せめて、今乗っている人が低い階の住人であってくれ。
 だが、俺の願いもむなしく、最上階の12階までしっかり上がって行った。頼むから、早く降りて来てくれ。何度も心の中で呟いた。
 数字が一つずつ、同じテンポで減って行く。7、6、5。
(よし、そのまま)
 今日はとことん思い通りにならない日らしい。エレベーターは5階で停止している。誰だか知らないが、早く降りてきてくれ。いよいよ本格的に尻を締めなければいけないレベルに達している。腸の内部ではもう抑えきれない。呼吸が乱れている。それは走り疲れただけじゃないことは間違いない。
「こんにちは~」
 小さい子供を2人連れたお母さんが降りて来た。子供を抱えながらベビーカーを押すのに苦労している。重労働だ。
 俺は軽く会釈する。口を開ける元気でさえ、もう残っていない。
 7階、7階。7のボタンを探す。手が震える。少しでも意識を向けてしまってはいけない。もう少しの辛抱だ。
「あっ」
 押し間違えた。7の一個下についている、5階のボタンを押してしまったのだ。



 その弾みだった。腸の中で、絶望の音が聞こえた。ダムの決壊。じわれ。つのドリル。ぜったいれいど。
 終わった。
 それ以上の言葉は出てこなかった。
 悲しい気持ちはなかったのに、なぜか涙が溢れそうになった。
 扉が開かれた時、太陽の眩しさが目に直接入って、思わず目を閉じた。
 せめて、職員室トイレに入るとか、授業中に手を上げるとか、成り振り構わない行動を起こすことができたら。
「終わった……何もかも」

 ヒヤッキーは倒れた!
 ツザッキーはもう戦う術が残っていない!
 ツザッキーは目の前が真っ白になった!
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by junjun-no2 | 2011-02-27 01:30 | 小説